"俺たちには時間がなかった。どんな手段を取っても、アイツがどこに逃げたのかを
突き止めなければならない。アイツが持ち去った金……それは兄貴に上納するために
かき集めたものだ。兄貴との関係を保っておかないと、俺たちは東京で生きていられない。
それはアイツもわかっていたはずなのに。

それで、俺たちはアイツの女を拉致した。卑怯? なんとでも言ってくれ。
それ以外にどんな方法があるっていうんだ。
まずは抵抗を封じるため、X十字に拘束する。だが、女は呆然としたまま、暴れようともしない。
ただ、見開かれた目には「私がこんな目に合うはずがないのに」という絶望が浮かんでいた。
それを見ていると俺はやり場のない怒りがこみ上げてくるのを自覚せずにはいられなかった。
俺は自分のことを冷静なタイプだと思っていたが、今は感情を抑えきれない。

「アイツはどこに隠れているんだ! 言わないと本気で殺す」
拳で女の腹を殴る。女の口から声とも呻きともつかない音が洩れた。
渾身の力を入れたいのはやまやまだが、気を失われても困る。
かなり手加減してやっているが、あの細い体では耐えるのもやっとなのだろう。
十字架に縛り付けられていなければ立っていることもできないほど膝が震えている。
何なんだよ、これは! 暴力を振るっても思ったほどの効果がないことが
俺には腹立たしくてならない。焦りが募る。失神するほどでない痛みを与えるには
どうすればいいだろう。

俺は鞭を取り出し全力で振り下ろした。部屋中に女の絶叫が響く。
白い肌に真っ赤な痕が浮かび上がった。
「言えよ! 言えばすぐに帰してやるよ!」
俺は女を鞭打ちながら頭が真っ白になっていくのを感じた。
金を取り戻さないといけないこと。裏切ったアイツへの怒り。俺たちの今後。
そういう不安が交じり合って目の前の女へ向かう。

「何のこと……私、そんなこと…知らない」
女は切れ切れに言った。喋れるほどの体力があるなら、まだ打ち続けても大丈夫だよな。
そう一人で荒れ狂っていると、女の通学カバンを調べていた仲間が低く渇いた声で俺に告げた。
「…そいつ、奴の女じゃないです。人違いだ……」
それを聞いた途端、一気に血の気が引いた。そんなことってあるのかよ……
俺たち、どうすればいいんだよ。いや、待てよ。今、必要なのは金なんだ。
この女を使って、兄貴に渡す金を作ればいいだけの話じゃないか。
アイツの居場所を調べるのはそれからでもいい。

まったく関係ないのに殴ってすまなかった。とんでもないことに巻き込んでしまったな。
でも、これもめぐり合わせが悪かったと思って諦めてくれ……。"